プラズマ圏・内部磁気圏衛星観測の提案 |
プラズマ圏・内部磁気圏衛星観測の提案飯島雅英、小野高幸(東北大)、小原隆博(通総研) 湯元清文(九大)、三好由純(東北大) (2001年11月19-20日、第2回宇宙科学シンポジウム、宇宙科学研究所) |
1.はじめにあけぼの衛星は、オーロラ粒子の加速過程の解明をその主目的として1989年に打ち上げられた。 その後12年にわたり集積された観測結果は、その主目的であるオーロラ粒子の加速機構の解明にとどまらず、 プラズマ圏・内部磁気圏に関する新たな描像を明らかにしてきている。 それは、従来のプラズマ圏・内部磁気圏の描像として考慮されることがなかったダイナミックな変動の様相である。 放射線帯粒子、特に外帯電子の磁気嵐に伴う消失と再形成、 "ロバの耳現象"と名付けられた磁気嵐回復相における大規模なプラズマ密度減少域の形成と それに関わるプラズマ圏構造の変動(Oya,1991; Oya,1997)、 磁気赤道域を中心とした非線形過程も含む静電的プラズマ波動の励起域(Oya,1991; Oya et al., 1991)等の諸現象は、 内部磁気圏・プラズマ圏にかかわるこれまでの認識を一新しつつある。 これら主に磁気嵐に対応した、プラズマ圏のダイナミックな諸現象は、 磁気圏尾部に蓄えられたエネルギーが、 主に極域へ磁力線に沿って輸送されるサブストームのエネルギー解放に対して、 磁力線を横切る形で磁気圏尾部のエネルギーが内部磁気圏に輸送され、解放される 磁気圏内のもう一つのエネルギー解放に対応している。 これらの磁気嵐に関連したプラズマ圏の諸現象は、 プラズマ圏・内部磁気圏の従来の理解、すなわち、 プラズマ圏は磁気圏対流電場と共回転電場の均衡によって形成され、 拡散した電離圏プラズマを満たした静かな低エネルギープラズマの器であり、また 高エネルギー粒子は、中性大気との衝突、電荷交換、クーロン散乱、 ホイッスラー波によるピッチ角散乱等によるロス(Kennel and Petschek,1966)がある他は 断熱不変量を保持した安定な存在であり、 その物理はradial diffusionで充分に理解されるという描像(Lyons,Thorne and Kennel, 1972)が、 実際とは大きく異なったものであることを示している。 あけぼの衛星のこれらの観測事実は、プラズマ圏がactiveで自由エネルギーに満ちた空間であり、また プラズマ波動による速度空間内の拡散(加速)が 高エネルギー粒子の形成、輸送に大きく関わっていることを明らかにしてきたが、 これらの物理像を解明するためには内部磁気圏・プラズマ圏研究をターゲットとした 新たな衛星計画が必要である。
2.放射線帯の新しい描像 --- 磁気嵐に伴う外帯のダイナミックス放射線帯、特に外帯電子についてダイナミックな新しい描像が明らかにされつつある(Obara et al., 2000,2001; Miyoshi et al.,2000)。それは、磁気嵐主相における外帯電子の消失と、 回復相における再形成である。主相における外帯電子の消失に関しては、adiavaticなlossの他、 magnetopauseへのconvection out, ピッチ角散乱による大気への降下が提唱されている。この消失機構は、 異なるL、異なるLocalTimeでの多点同時観測によって解明する事が出来る。 一方、回復相における放射線帯粒子の再形成過程は、未解明な物理を多く含んでおり、 プラズマ輸送、プラズマ加速に関する深い理解が必要である。 広範囲に、しかも急速に起こるMeV粒子の増加は、従来の古典的な加速および拡散では説明不可能であり、 放射線帯心臓部での加速機構、そして異常なまでの拡散機構の存在が強く示唆されている。 問題の焦点となっているのは、ホイッスラーモードのプラズマ波動で、 これが統計的に粒子を加速させていると考えられる(Miyoshi,2000)。 その基礎過程はホットなプラズマが自由エネルギー源となってプラズマ波動を発生させ、 強いプラズマ波動は高エネルギー粒子の一部を速度空間での拡散によりさらに高いエネルギーへと導くもので、 開放系における熱力学を正面から扱う意義がある。この物理過程を解明する為には、 hotからrelativisticにいたる広いエネルギーレンジの粒子が、電磁場特にプラズマ波動と同時に 計測される必要がある。
3.プラズマ圏内プラズマ波動現象の新しい描像あけぼの衛星搭載のプラズマ波動観測装置(PWS)による12年間の観測結果は、 プラズマ圏において多種多様なプラズマ波動現象を発見し、 プラズマ圏は静穏であり、主だったプラズマ波動は磁気圏にしか存在しないという 従来の概念を書き換えている。 プラズマ圏では、磁気赤道域を中心に地磁気的に静穏な場合でも 多様なプラズマ波動現象が惹起している。それらは、 EPWAT現象、 EP-ESCH波動、 f_OH波動 等である。EPWAT現象は、 プラズマ圏磁気赤道に局在した狭い領域でUHRモードからZモードのプラズマ波動の強度が急増する現象である。 このEPWAT現象には、磁気嵐に伴い磁気圏から流入したエネルギーに呼応して変動する成分と、 定常的に存在する成分があることが判明しているが、その原因となる物理過程はまだ多く未解決である。 特にその自由エネルギー源が何でなぜそれが磁気赤道に局在するのかを解明しなくてはならない。 そのためには広いエネルギーレンジの粒子計測を磁気赤道域で実施することが本質的に重要である。 またEP-ESCH波動は f_Qn 付近の静電的プラズマ波動が極めて狭帯域に励起される現象で、 このEP-SCSH波動との非線形波動粒子相互作用を通じて発生しているf_OH波動とともに、 静穏時でもプラズマ圏内には温度異方性をもつ高温プラズマ あるいは高エネルギープラズマが豊富に含まれていることを示している。しかし あけぼの衛星では粒子観測が極域に限られていたため、 その詳細な描像が粒子計測によっては得られておらず、 今後これらを直接粒子観測から実証することは大きな意義をもっている。 一方、擾乱時には、"ロバの耳現象"で代表される大規模なプラズマ密度変動現象が存在する(0ya, 1991;Oya,1997)。"ロバの耳現象"は磁気嵐回復期に 磁気赤道域を中心としたプラズマ圏内部領域に 通常のプラズマ密度の1/3から1/5の低密度領域が形成される現象である。 最近、lMAGE衛星によって見い出されたPlasma Void (Sandel et al., 2001) は 同一の現象である可能性が高い。 この現象の時間空間発展を多点観測から直接観測的に解明することは、 プラズマ圏のダイナミックスを考える上で重要な鍵を握っている。 "ロバの耳"現象の時間発展に関する考察から Oya(1997)は、Ring Current の時間変動に伴う誘導電場による プラズマのドリフト効果(べータトロンドリフト)を提唱した。 従来、プラズマ圏およびプラズマポーズの形成を支配しているのは、 共回転電場と磁気圏対流電場、すなわち ともにスカラーポテンシャルで表現される電場と考えられてきた。それに対して べータトロンドリフトの効果はベクトルポテンシャルの時間変化で生じる電場の重要性を指摘したものであり、 従来の磁気圏物理では考慮されてこなかった新たな内容をもっており、 この機構を観測から解明することは重要な意義をもっている。 またこの"ロバの耳現象"に伴って放射されるプラズマ圏キロメーター放射に関しては 興味深い事実が明らかとなってきた。 それは、この放射の中に強度の強いR-Xモードの放射が含まれている点である。 プラズマ圏内部のようなプラズマ周波数が電子サイクロトロン周波数より大きな領域では、 従来知られているサイクロトロンメーザー機構等で直接R-Xモードの電磁波を生むことは不可能であり、 またこれまでのモード変換理論(Oya,1971; Jones,1987)をこの事実にそのまま適用することは困難である。 この電波の放射機構の解明 は、宇宙空間プラズマにおける新たな電磁波放射機構の解明につながると考えられる。
4.内部磁気圏観測衛星の特徴と意義これら内部磁気圏・プラズマ圏における研究をふまえて次のような衛星観測計画を実施することを提案したい。 科学目的として「内部磁気圏における高エネルギー粒子と熱プラズマのダイナミックスの理解」を主題とする、 内部磁気圏観測衛星を複数機打ち上げる。 ここでは比較的小型の衛星を複数用いた連携観測を実施して、 放射線帯粒子、プラズマ圏構造の空間的広がりと時間変動をとらえ、 外帯電子の消失と再形成の問題、ロバの耳現象で代表される プラズマ圏構造のダイナミックスに関する重要課題を解明したい。ここでは、 それぞれの小型衛星に搭載する観測装置は限定されたものであっても、複数機による総合観測を通じて、 現象の空間構造と時間変動の解明することをその主目的としている。 この内部磁気圏における衛星観測実現には、 強い放射線帯粒子による影響を如何に抑えるかの技術的課題が残されるが、 それに関連した技術開発は、将来の木星探査ミッションの実現には不可欠な 工学的基盤技術を確立することにつながる。さらに最近の小型衛星開発の動きは、 低コストによる衛星観測技術と結び付き、 この複数の内部磁気圏観測衛星の実現は、大きく将来の宇宙観測に貢献することが期待される。 この衛星計画は、国際協同研究計画との対応という視点でも大きな意義をもっている。すなわち、 SCOSTEPにおける長期計画として現在、2003-2008年のCAWSES(太陽地球系システムの気候と気候と気象) 研究計画が実施準備に入っているが、我が国がこの計画に対応したプラズマ圏観測衛星を持つことは、 大きな意義を持つとともにその貢献が期待されている。
5.プラズマ圏・内部磁気圏観測衛星の基本仕様上記の観測項目の実現に向けて、ここでは 近地点500km、遠地点4-6 Re程度の衛星を赤道軌道面に2機、極軌道面に1機の衛星を配置することを提案したい。 赤道面における2機は、経度(ローカルタイム)方向の時間発展を追う上で重要であり、 低高度の極軌道衛星は、軌道周期が10時間程度となる赤道衛星を補い、 短時間に広いLをカバーする意味をもつ。搭載する装置群としては、 プラズマ速度分布関数(thermal plasma density, temperature)、高エネルギー粒子、 電場、磁場、プラズマ波動を基本観測装置とする。 また、衛星間で電波伝搬観測を行いプラズマ密度の3次元構造を明らかにする。 この観測は衛星のin-situの観測や、lMAGE衛星で実施されている2次元的なプラズマ圏の像を補う 3次元的な描像をトモグラフィー的に明らかとするものである。
参考文献
Jones,D., Phs.Scr., 35, 887,1987. |