東北工業大学 情報通信工学科 中川研究室


中川朋子 学会・シンポジウム発表論文要旨 

2衛星観測データによるトーラス型磁気ロープモデルのフィッティング
Model fitting of a torus type magnetic rope observed by NOZOMI and ACE

中川朋子(東北工大)
Nakagawa, T.
日本地球惑星科学連合2007年大会、2007年5月22日.

太陽表面におけるプロミネンス消失等で発生するロープ状にねじれた特徴的な磁場構造は、惑星間空間に放出された 場合、マグネティッククラウドとして観測され、フラックスロープと呼ばれる3 次元的な構造を持っていると考えられて いる。近年、人工衛星等による観測を再現するため、円筒状のモデルだけでなく、軸がトーラス状の磁気ロープモデル が用いられるようになってきたが、パラメタの自由度が増えているため、1点観測でのフィッティングの妥当性を検討す る必要がある。
1999 年4 月16-17 日にACE 衛星によって観測されたマグネティッククラウドは、Ishibashi and Marubashi(2004) によ り、大半径0.3AU、断面半径0.07AU のトーラス型のフラックスロープ構造にフィッティングされている。この構造は、 約0.2AU 下流、太陽中心経度差3 度(距離にして0.06AU)の位置にあった火星探査機「のぞみ」でも1 日遅れで検出さ れており、モデルの妥当性を検討できる貴重なイベントとなっている。本研究では、「のぞみ」データを用いて、ACE のデータによるフィッティングの妥当性を検証し、さらに二つの衛星データを用いたモデルフィッティングの可能性を調 べる。
Reference:
Ishibashi and Marubashi, (2004), Geophys.Res.Lett.31, L21807, doi:10.1029/2004GL02702.

The torus-shaped flux rope model applied to the magnetic cloud observed by ACE on April 16-17, 1999, was tested by the nearly simultaneous observation by NOZOMI spacecraft that was within 3 degrees in heliocentric longitude and 0.2 AU in heliocentric distance of ACE. An attempt of fitting a torus-shaped flux rope model to the NOZOMI and ACE observation is made.

2 次元粒子シミュレーションによる月周辺の電場構造の解析
A 2-Dimensional full particle simulation of electric structures around the moon
木村進矢、中川朋子(東北工大)
Sinya Kimura, T. Nakagawa
日本地球惑星科学連合2007年大会、2007年5月23日.

1. はじめに
太陽は、太陽風プラズマと呼ばれる荷電粒子の集まりを絶えず宇宙空間に放出しており、月はその太陽風の流れに逆 らうように浮かんでいる。プラズマとは正の電荷を持つイオンと負の荷電を持つ電子の集まりであり、全体で電気的に 中性なものである。それが月表面にぶつかると、月は誘電体で構成されているので荷電粒子が月面に吸着され、月の下 流にはウェイクと呼ばれる粒子の密度が薄い領域ができる。ウェイク中は電気的に中性ではなく、ウェイク境界には電 場ができることが様々な観測から示唆されている。月から6.5RL 下流のウェイクを通過したWind 衛星のイオン観測に よると、ウェイク境界には0.2mV/m の電場があると推定されている。 月の近くにはもっと強い電場があるのではないかという報告もある。月の電子の帯電を考慮に入れると、月表面と太 陽風中には600V ほどの電位差が生じるとの予想がある。月表面に近い電場の観測はないので、このような強い電場の存 在を示すためにはシミュレーションをしなければならない。しかし過去の月周辺のシミュレーションで電子とイオンの 両方の帯電を考慮に入れた実験はなかった。 そこで本研究では全粒子法を用いて電子とイオンを粒子として扱い、月への帯電を考慮に入れて月周辺に強い電場が 生じるかを見る。

2. 計算方法
プラズマの計算には全粒子法であるElectroMagnetic 2D(Birdsall and Langdon, 2005) を用いる。これはプラズマをたく さんの荷電粒子でシミュレートする方法である。粒子の運動は運動方程式で計算し、電磁場はFDTD 法を用いて計算す る。 空間は月の形を考慮に入れるために20RL × 20RL の2 次元にとる。グリッド数は256 × 256 とした。計算は領域全体 に太陽風の粒子を撒いてウェイクができるところから始める。太陽風は、X=0 の境界からX 軸方向にプラズマが流れる ように粒子を注入し、反対方向へ出た粒子を取り除くことで再現する。帯電は、月表面にぶつかった粒子の電荷をぶつ かった位置で積算することで考慮に入れる。太陽風が領域内を4 周したとき月への帯電がある程度落ち着いたので、こ のときを実験結果として見る。 GEOTAIL の観測によると太陽風の平均速度VSW は500km/s、電子の熱速度Ve は2650km/s であるが、時間の節約のた めVe とVSW とイオンの熱速度Vi の大小関係Ve > VSW > Vi を変えないようにVe=0.1c, VSW=(1/4)Ve, Vi=(1/8)VSW と決めた。月周辺の太陽風中のデバイ長23m は月の半径より非常に小さいが、計算ではデバイ長を1 グリッド以下にで きないのでデバイ長を(1/4)RL とした。

3. 結果と考察
シミュレーションで得られた月周辺の電位を見ると月の下流が負の電位になっており、ウェイクができているのがわ かる。月の裏面を見ると、ウェイク中よりも大きく負に落ちていた。これは電子の帯電によるものである。Vi はVSW よりも遅いのでイオンは月のすぐ裏側に入り込めないが、Ve はVSW より速いので月の裏側にも入り込むことができる。 その結果、月の裏面は電子しか帯電しないので、このように負の電位構造が現れるのだと考えられる。裏面の電位の値 を見ると-14kV であったが、月の帯電モデルの例の600V に比べると非常に大きい。これは衛星の帯電モデル計算より、 Ve を大きくしたからだと説明することができる。太陽風中の帯電による衛星の電位というのは電子の温度に比例すると 知られており(Fahleson, 1967)、今回は電子の熱速度を10 倍(温度は100 倍) ほど高くしたため電位が100 倍大きくなっ てしまったのだと考えられる。 シミュレーションで得られた月周辺の電場を見ると、ウェイク境界の電場より月の側面(ターミネーター域) に強い電 場が現れていた。この電場は今回帯電を考慮に入れた計算で初めて現れたものである。月の昼側表面は電子とイオンの両 方が到達できるので電気的におよそ中性になるが、夜側表面は負になる。これによりターミネーター域には鋭い電位の 勾配が現れるため、このように強い電場が生じたのだと考えられる。ウェイク中の電場強度の空間変化を見ると、ター ミネーター域の電場はウェイク境界の電場より強く、Wind 衛星が通過した6.5RL 後方のウェイク中と比べるとおよそ25 倍強かった。

4. まとめ
月のターミネーター域には、月から6.5RL 後方のウェイク中の電場強度12mV/m(Wind 衛星では0.2mV/m) より、およ そ25 倍強い300mV/m ほどの電場が現れた。

The electric field structure around the moon is studied by using a two dimensional electromagnetic full particle simulation in order to examine the presence of an intense electric field. By considering absorption of the plasma particles at the surface of the moon, we found that an intense electric field is produced at the terminator region on the boundary between the negatively charged, nightside surface of the moon and the electrically neutral, dayside surface, even though photoelectrons are not taken into consideration in this study. The intensity of the electric field at the terminator region is 2-7 times stronger than the electric field in the wake boundary 3RL downstream of the moon obtained in the simulation. The thickness of the layer of the electric field is of the order of Debye shielding length.

2衛星によって観測された磁気ロープのトーラス型モデルへのフィッティング
Multi-spacecraft fitting of an interplanetary magnetic rope to a torus-type force free model field
中川朋子
Tomoko Nakagawa
第122回地球電磁気・地球惑星圏学会、名古屋、名古屋大学、2007年9月29日.

1999 年4 月16-17 日にNOZOMIとACE の2つの探査機によって観測された磁気ロープは、普段は1点でしか観測することのできない磁場構造をそのスケールに近い距離だけ離れた2点で観測できた例として、3次元モデルの妥当性を検討するうえで貴重なイベントである。本研究では、2つの探査機によって得られた2組の磁場データを1つのトーラス型force free磁場モデルにフィッティングし、片方の観測結果のみを使ったフィッティング結果と比べた。 使用したデータは各探査機とも1時間平均値で、ACE(太陽中心距離1.0AU)は1999 年4 月16日20時から17 日19時まで、NOZOMI(太陽中心距離1.2AU)は同年4 月17日20時から18 日17時までの観測である。このときの両者の太陽中心経度差は約3度(距離にして0.06AU)で、磁気ロープ到着の直前までは、両者の観測する磁場は太陽風速度の伝搬時間だけ時刻をずらせばほとんど一致していた。磁気ロープ到着とともに、特に南北成分の磁場に大きな違いが現れた。これは探査機がトーラス型フラックスロープ構造の異なる位置を通過したためと考えられる。

使用するモデルは、より現実的なケースに対応できるよう、トーラスの大半径Rが断面の小半径rよりはるかに大きいという仮定を必要としないトーラス型force free磁場(Romashets and Vandas, 2001,2003)とした。簡単のため、級数解の0次の項のみを使用した。観測された磁場(それぞれの探査機の観測期間中の最大磁場強度で規格化)とモデル磁場の差の2乗和が最小となるよう、大半径R, 断面の小半径r, トーラスの軸方向、探査機の通過位置を求めた。探査機の通過位置はインパクトパラメタで表現することが多いが、今回はACE衛星通過点のトーラスの最北端からの角度とトーラスの大円の軸からの距離で指定した。2つの探査機の位置関係は決まっているので、ACEの通過位置を決めればNOZOMIの通過点も一意に定まる。トーラスに沿った(troidal)磁場の方向と、それに対する巻き方向(キラリティ)は観測に合うよう自動選択させた。簡単のため太陽風速は一定とし、また、形状はそれぞれの探査機位置の太陽中心距離に比例して拡大することした。

フィッティングの結果は、意外にも、ACEだけでフィッティングして得られたフラックスロープとあまり変わらなかった。特に、ACEのみによるフィッティングではトーラス型のモデル構造の上端付近を観測したのか下端付近を観測したのか決め手を欠いていたため2点観測によってこれが改善されると期待したが、2点観測を使った結果においても上端通過、下端通過いずれの場合でも同程度のフィッティングができてしまい、通過位置決定の大幅な改善には至っていない。これには観測された磁気ロープのトーラスの曲率半径がさほど小さくなかったこと、級数解の0次モデルにとどめたこと、太陽風速を一定と仮定したことなどが関わっている可能性もあるため、さらに検討を重ねる予定である。

Multispacecraft observation of a magnetic rope by NOZOMI and ACE on April 16-17, 1999, was used in fitting a torus-type force free field model. The result of the fitting by the two sets of observation was similar to that from a single observation.

2衛星観測によるCMEのトーラス型磁気ロープへのフィッティングの検証
中川朋子
名古屋大学STE研究集会および太陽圏シンポジウム、名古屋、名古屋大学、2008年1月30日.

1999 年4 月16-17 日にNOZOMIとACE の2つの探査機によって観測された磁気ロープは、普段は1点でしか観測することのできない磁場構造をそのスケールに近い距離だけ離れた2点で観測できた例として、3次元モデルの妥当性を検討するうえで貴重なイベントである。本研究では、2つの探査機による観測から、トーラス型磁気ロープモデルの妥当性を調べた。 使用したデータは、ACE(太陽から1.0AUの位置)は1999 年4 月16日20時から17 日19時までの24点、NOZOMI(太陽から1.2AUの位置)は4 月17日20時から18 日17時までの22点の1時間平均値である。両者の太陽中心経度差は約3度で、磁気ロープ到着の直前までは、両者の観測する磁場はほとんど一致していた。

使用するモデルは、トーラス型force free磁場(Romashets and Vandas, 2001,2003)で、級数解の0次の項のみを使用した。観測された磁場の方向ベクトルとモデル磁場の方向ベクトルの差の2乗和が最小となるよう、モデルのパラメタを決定した。今回、「観測があるのに(探査機位置がトーラス外となり)該当モデルが無い」「モデルではトーラス内のはずなのに観測では磁気ロープ外」の場合も、モデルと観測の差が最大として扱うことにした。

トーラスモデルのパラメタは大半径R, 断面の小半径r, トーラスの軸方向(φ,θ)、探査機の通過位置(φp, p)、通過開始時刻(1時間以内の微調整)の計7個である。探査機の通過位置はインパクトパラメタで表現することが多いが、今回はACE衛星通過点のトーラスの最北端からの角度φpとトーラスの大円の軸からの距離pで指定した。2つの探査機の位置関係は決まっているので、ACEの通過位置を決めればNOZOMIの通過点も一意に定まる。トーラスに沿った磁場の方向と、それに対する巻き方向(キラリティ)は観測に合うよう自動選択させた。簡単のため太陽風速は一定とし、また、形状はそれぞれの探査機位置の太陽中心距離に比例して拡大することした。トーラスの拡大に伴い、各部分の速度も計算し、観測と比べた。

フィッティングの結果は、探査機がトーラスの上端を通過した場合を考えた方が、下端付近を観測したと考えるよりも観測とよく合うことを示していた。やや北よりに位置していたNOZOMIがトーラス中心軸より外側の部分、南寄りだったACEがトーラスの内側寄りの部分を通過する形となったため、RNT座標系のBt成分(GSE座標ならBy成分)が両者で逆向きであったことが説明できるようになった。また観測時間も2つの探査機による観測時刻をほぼ再現できた。

探査機がトーラス北端を通過したと言うことは、トーラス中心は黄道面より南側にあったことになる。この磁気ロープの発生元と考えられている4月13日のフィラメント消失は北半球の現象であったが、太陽圏のカレントシートは南寄りにあったので、北半球起源の太陽風が低緯度(カレントシート方向)に向かっていったことは十分考えうるのではないかと思われる。

Multi-spacecraft observation of interplanetary coronal mass ejections
T. Nakagawa, A. Matsuoka, and NOZOMI/MGF Team
日本地球惑星科学連合2008年大会、2008年5月25日.

Understanding the overall structure of an interplanetary coronal mass ejection (ICME) on the basis of a single spacecraft observation is often difficult. It is useful to use two or more spacecraft which are separated by a distance comparable to the typical scale of the structure. A successful example is a torus-shaped magnetic flux rope determined from observations made by NOZOMI and ACE separated by 0.2 AU in the direction of the solar wind stream. Another example is a sheath structure preceding an ICME, in which large-amplitude magnetic fluctuations are observed to propagate outward. In this paper, the formation of a planar magnetic structure from the Alfvenic fluctuations ahead of an ICME will be discussed.

2003年11月初旬に観測された火星ターミネータ上の突起
A protrusion from the terminator of the Mars observed on November 4, 2003
中川 朋子, 南 政次
T. Nakagawa, M. Minami
日本地球惑星科学連合2008年大会、2008年5月25日.

 2003年11月4日から8日にかけて、火星の南半球朝方の日照・日陰境界の一部が、約10度の緯度幅にわたって夜側に突き出ている現象が観測された。南半球の夏(Ls=290-295度)で大接近のやや後、火星の南半球が良く見える頃であるが、記録的な地球磁気嵐を引き起こした高速の太陽風の直後でもあり、火星大気固有の現象と太陽風との相互作用による現象の両方の可能性が考えられる。

 この現象は2003年11月4日9:20UT、火星の中央子午線経度203°W(西経)の時点で、東側の朝方のターミネータの40°Sから50°Sに突起らしいものとして観測されたのが始まりである。火星の白雲、黄雲とは様子が異なり、蒸気や湯気が上がったような見え方で上部が消え入るように薄くなっていた。大接近の際は、火星の地形がターミネータから突出して見えることがあるが、その場合は火星の自転のため短時間で見えなくなるのに対し、この現象は長時間見え続けていたので、地形による突起ではない。青色フィルタ(444/105nm)を用いた撮影で顕著な雲は捉えられず、また、地表の模様もはっきり見えていてダストストームは起こっていなかった。

 この突出は11月4,6,7,8,17日に、福井、横浜、沖縄、名古屋、イタリアから観測されている。各地で観測された際の中央子午線経度は西経およそ170-220度と幅広い。ターミネータと中央子午線の差は緯度40°Sで70°W、50°Sでは80°Wであったので、ターミネータの経度は240°Wから300°Wに相当し、AusoniaからHellasにかけての地域がターミネータを通過する時に突出が見えたことになる。観測された経度幅が広いことから、火星上層に細長くかかった帯状の構造が光っていた、あるいはターミネータ上に局在する現象が数時間継続していた、と考えられる。

 惑星の発光現象としてはオーロラがあるが、オーロラならば、日光の当たらない夜側のほうが良く見えるはずである。火星で報告されているオーロラとは現れ方、スケールとも異なるので、今回の現象はオーロラというよりも火星上空に浮かんだダスト、雲、エアロゾルが光っている可能性が高いと思われる。

 観測写真から見かけの突出の長さを火星半径の10%弱と読み、その高さを概算すると60kmないし300km程度となる。このあたりの高度ではMars Expressの紫外線分光器で火星大気中を通過する星の光の減光を測定しエアロゾルによる減光の高度分布を求めた例がある。普通のダスト層上端からはっきり上に離れた高度90km付近に二酸化炭素雲による減光のピークが報告され、その場の温度が二酸化炭素の凝結温度より低かったため、二酸化炭素氷の雲であろうと推察されている。今回の突出現象の原因のひとつの可能性として考えられるが、雲が観測されていないのに氷の雲だけが観測され得るのか、また、なぜこの時期、この緯度だけに観測されたのかという疑問が残る。

 この高度は通常のダストの高度よりは高いが、粒径の小さいダストならばこの高度まで上がるというシミュレーションもある。この場合も、なぜこの緯度だけダストが上がるのかという説明が必要となる。

 この時期特筆すべきは高速の太陽風である。2003年10月29日には地球軌道付近で1850km/s を超える高速風が観測され、その後も11月4日まで500km/s以上の高速風が続いていた。11月12-16日にも600km/sを超える高速風が連続して観測されている。この期間の地球と火星の太陽中心経度差は24度程で、地球に到達したのと全く同じ太陽風が当たるわけではないにせよ、通常に比べ非常に速い太陽風が火星に吹き付けていたのは確かである。

 火星には地球のような大規模双極子磁場が無いため、太陽風と火星の中性大気は直接相互作用するといわれることが多い。高度290kmまでの太陽風プラズマの侵入や、太陽風が中性大気と電荷交換してできた高エネルギー中性粒子流も観測されている。その一方で、ローカルな固有磁場は意外に強く、火星全体の70%で固有磁場が高度120kmを越えて広がっている。特に南半球の緯度50°S付近は磁場が強く、太陽風の直撃からシールドされている。しかしながら、この緯度にあってもHellasとArgyreの付近は磁場が弱いので、もともと夏半球で高温となっていた下層大気のうち、周辺と違って磁場のバリアを持たないHellas以西の大気だけが高速の太陽風によって数日にわたって叩かれ続け、電荷交換などの過程を経て加熱された可能性も考えられる。上昇気流が発生しダスト巻上げが起こるほどの加熱が可能かさらに検討が必要である。

参照: http://homepage2.nifty.com/~cmomn2/283OAAj/index.htm

A protrusion phenomenon was observed on the morning terminator of the southern hemisphere of the Mars, around the latitude of 40 - 50°S, during the period from November 4 to 8, 2003, in the summer of the southern hemisphere of the Mars (Ls=290-295). It was about 70 days after the closest approach to Earth, and 5-10 days after the fastest solar wind (1850km/s at Earth's orbit) observed on October 29, 2003.

The protrusion was observed on November 4, 6, 7, 8 from Fukui, Yokohama, Okinawa, and Nagoya. There was another report of observation on November 17 from Italy. The central meridian at the detection of the protrusion, 170-220°W, corresponds to the longitude of the terminator 240-300°W. That is, the projection event was observed when the area from Hellas to Ausonia crosses the terminator. The blue image does not show any prominent cloud. No dust storm was observed, either.

The protrusion phenomenon is not likely to be the aurora, because it persisted for several hours, differently from the characteristic nature of the Martian aurora. Furthermore, an aurora would be clearer on the nightside, rather than on the terminator.

The altitude of the light material is estimated to be in the range from 60 to 300 km. At the altitude of 90 km, an ice cloud of CO2 was reported by Montmessin (2006) on the basis of Mars Express UV observation, although it was in the winter hemisphere.

It should be noted that the projection event was preceded by extremely fast solar wind. The speed was over 1850km/s at Earth on October 29, 2003 (Skoug et al., 2004). The solar wind whose speed was larger than 500km/s persisted for more than a week. The heliocentric longitude between the two planets was about 24 degrees. Such a fast wind must have reached Mars, too. It is believed that the solar wind interacts with the Mars' neutral atmosphere due to the lack of the global dipole magnetic field. Although there are strong crustal magnetic fields mainly in the southern hemisphere, the large impact basins of Hellas and Argyre are largely devoid of enhanced magnetic fields. The Mars' atmosphere, bombarded by the fast solar wind, might be heated through charge exchange process, production of energetic neutral atoms, or sputtering process.

Reference: http://homepage2.nifty.com/~cmomn2/283OAA/index.htm

宮城県川渡で観測されたシューマン共振の長期変動
Investigation of the long term variation of the Schumann resonance observed at Kawatabi, Miyagi 1998-2007
柏 孔明,小野 智史,中川 朋子
K. Kashiwa, S.Ono, and T. Nakagawa
日本地球惑星科学連合2008年大会、2008年5月29日.

東北工業大学では、1997年よりELF帯の地磁気変動を継続して観測している。人工的なノイズの少ない宮城県大崎市鳴子川渡に磁力計を移動した1998年12月10日から2007年11月21日までに得られた地磁気変動データを用いて、シューマン共振の長期変化を調べた。観測は南北方向に設置したフラックスゲート インダクション型磁力計(観測周波数帯はおよそ0.125Hzから40Hz程度)で行い、周波数128Hzでサンプリングされたデータを8秒ごとにフーリエ変換し、スペクトルのゆらぎを除くため1時間平均している。得られたスペクトルには7.9Hz, 14.3Hz, 20.7Hz, 27.0Hz, 32.8Hzに明瞭なシューマン共振が見られている。それぞれのモードの強度(振幅)を抜き出してその時間変化を追うと、従来のあまたの観測と同様、明瞭な季節変化と時刻依存性が見られた。時刻と季節別に整理すると、シューマン共振の起源となる雷の主要な発生地が雷多発地域(地方時)に入る時刻によって、季節変化が異なることも示された。特に、UT 0時(北米の雷多発時刻)のシューマン共振は北半球の夏に強く、UT 15時(アフリカの雷多発時刻)のシューマン共振は年間を通じて良い傾向があり、これはFullekrug and Fraser-Smith (1997)による報告とも一致している。異なるのは南米の雷起源といわれるUT 20時のシューマン共振が、川渡ではあまり強くなっていないこと、逆に、UT 8時付近のシューマン共振が川渡の夏にはっきりと強いことである。UT 8時付近のシューマン共振はFullekrug and Fraser-Smith (1997)のグラフにも現れているが、比較的強度は弱かったようで言及は無かった。UT 8時は日本のやや西のアジア地域が雷多発となる時刻である。観測を行っている川渡近辺の雷による直接のノイズ(広い周波数帯にわたってフラットなスペクトルを持つ)を避けるため、シューマン共振から外れた11Hzの強度を差し引いて長期変化を見ても、夏に強くなる季節変化は残り、北米の雷による成分が強いことが解る。季節変化のパターンを差し引いて長期変化を見ても、言われているような地球温暖化に伴うようなシューマン共振強度の上昇は見られず、むしろ2007年に向かって下がっていく傾向であった。シューマン共振が強くなっていなかった原因として、高緯度起源の雷による電磁波は、低緯度起源のものほど温度変化に対して敏感でないという説明も考えられるが、強度が下がっていくことは説明できない。また、低緯度起源といわれるUT 15時(アフリカの雷多発時刻)のシューマン共振だけを抜き出して長期変化を見ても、年を追って強まっていくような傾向は見られていない。
※予稿には誤ってフラックスゲート型と書いてしまいましたが、実際はインダクション型磁力計が正しいです。

Long term variation of the intensity of the Schumann resonance is investigated on the basis of magnetic field observation at Kawatabi, northwest of Miyagi Prefecture, during the period from December 10, 1998 to November 21, 2007. The magnetic field fluctuations in the range from 0.125 up to about 40 Hz obtained by a fluxgate induction magnetometer with a sampling frequency of 128 MHz are Fourier transformed for every 8 sec. Hourly averages of the spectra show clear peaks at 7.9Hz, 14.3Hz, 20.7Hz, 27.0Hz, and 32.8Hz. The intensity of the fundamental to 5th modes of the Schumann resonance show seasonal variation as repeatedly reported by many authors. They also show universal time dependence, according as which of the major sources of the lightning activity in the world is in the area of the most intense lightning activity. In particular, there were prominent enhancements at 0 UT in the northern summer, associated with lightning activity originating from Northern America, and at 15 UT throughout the year, associated with lightning in the Africa, as reported by Fullekrug and Fraser-Smith (1997). There was another enhancement at around 8 UT , corresponding to the time when just west of Japan comes into the area of strong lightning activity. No enhancement was observed at 20 UT , which is said to be associated with Latin American lightning activity. Even after subtracting local lightning effects, no increase is observed associated with global warming.

太陽風磁場中の月周辺の電場構造の2次元粒子シミュレーション
A 2-D full particle simulation of electric field around the moon in the solar wind magnetic field
中川朋子, 木村進矢
T. Nakagawa, S. Kimura
第124回地球電磁気・地球惑星圏学会、仙台、戦災復興記念館、2008年10月11日.

月には地球のような大規模な固有磁場が無く、太陽風粒子が直接月面に吸収され[1]、下流には太陽風プラズマの無い領域「ウェイク」が形成される。このウェイクに関連したホイッスラー波が、月の4万7千km上流の太陽風中にいたGEOTAIL衛星によって観測されている[2]。この波を励起したのは太陽風磁力線に沿って流れる高速電子ビーム成分と考えられるが、サイクロトロン共鳴によってホイッスラー波を励起するためには、電子ビームが磁力線に垂直な速度成分を持っている必要がある[3]。電子ビームがピッチ角散乱を起こすには、磁力線に対し角度を持った電場が必要である。ウェイクの境界には、イオンと電子の熱速度の違いによって分極電場が形成されると考えられているが、粒子観測などによる状況証拠はあるものの[4]、この領域における電場の直接観測は無い。

本研究では、月による粒子の吸着も再現するため、2次元粒子コードによるシミュレーションを行った。人工衛星などの導体の場合と異なり、月を誘電体(完全不導体)と近似し、吸着した電荷は月面上を移動しないこととした。これまでの計算により、イオン、電子ともに吸着される昼側月面に対し、夜側月面は、太陽風より速い熱速度を持つ電子だけが到達できるため負に帯電し、昼夜の境界に、ウェイク境界よりも強い電場が現れることが示されている。

今回はさらに、太陽風磁場を模して太陽風の流れに対し45度の角度を持った磁場を加えた。ただし、月より小さなラーマー半径を実現するため、実際よりもかなり強い磁場(サイクロトロン周波数がプラズマ周波数の32倍)を設定している。結果は電場強度、方向とも磁場無しの場合と比べあまり大きな変化は無く、電子のピッチ角散乱に必要な磁場に垂直な電場成分と、沿磁力線方向の減速を生む磁力線に沿った電場成分の両方ができていることを確認した。

[1] イオンの一部は反射されているという最近の「かぐや」の観測がある。(Saito et al., COSPAR2008)
[2] Nakagawa et al., EPS,2003.
[3] Nakagawa and Iizima, EPS, 2005, 2006
[4] Ogilvie et al., GRL 1996, Futaana et al., JGR 2001, 2003, Halekas et al GRL 2001, Halekas et al, JGR 2005.

The electric field structure around the moon is studied by using a 2-dimensional electromagnetic full particle simulation. By considering absorption of the plasma particles at the surface of the moon, we obtain an intense electric field at the terminator region which is the boundary between the neutral solar-side surface and the negatively-charged, anti-solar side surface bombarded only by electrons with larger thermal speed than the solar wind bulk velocity. In order to simulate the solar wind magnetic field, we introduced the background magnetic field whose direction is 45 degrees from the solar wind flow. The result is essentially same as in the case with no background magnetic field, and we confirm the presence of the electric field components parallel and perpendicular to the magnetic field.

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