東北工業大学 情報通信工学科 中川研究室

太陽風



2002年11月16日
高等教育ネットワーク・仙台 公開講座

宇宙空間を吹く風
---太陽風---

東北工業大学 情報通信工学科
中川朋子



 環境への関心が高まるのにつれて、電磁的な環境へ関心をもたれる方も多くなってきたようです。 電磁波などというと人工的なものを連想しがちですが、 地球本来の、自然の電磁環境とはどんなものでしょうか。 ここでは、地球の電磁環境と、宇宙空間との深い関わりについてご紹介します。



 地球の電磁環境を調べる第一歩として、磁場を測定したとしましょう。  地球上の各地で常時観測していると、世界中ほぼ同時に磁場が変化することがあります。
 いくら地球磁場の成因が地球内部にあるからといって、 これほど速い磁場の変化が地球内部の原因によって起こるはずがありません。 内部に原因が無いとすると、地球の外に原因を求めるしかありません。

地磁気急変の例

電流が磁場を生む

地球の磁場は変形している



 地磁気の急な変化をおこすものが、太陽の重力を逃れるほどはるか遠くまでやってきた太陽のコロナであると判ったのはわずか45年前のことです。コロナのガスは百万度という高温のため大きな圧力を持っており、太陽系の果てにはそれを抑え込めるだけの圧力がないことから、毎秒300km以上の超音速で太陽から宇宙空間へ流れ出すと予想されました(Parker, 1958)。
 この流れの存在は直ちにロケットや人工衛星による観測で確かめられ、 太陽風(Solar Wind)と呼ばれるようになりました。

コロナに働く力



外向き太陽風(黄色)と 
らせん状の太陽風磁場(赤、青)
(c) Tomoko Nakagawa

 太陽風の主成分は水素ガスですが、高温のために正負の電荷に電離してしまい、 気体でありながら電流の流れる状態になっています。 電離した気体は磁場と一体になって動く性質があるので、 外へ噴き出す太陽風(左図黄色の矢印)は、太陽表面の磁場を太陽圏の果てまで運んでゆきます。
 一方、根元の太陽が自転しているので、 磁場をつないだ線は巨大な らせん形(上図赤と青の線)になります。 地球軌道から観測すると、太陽風の磁場は通常 太陽から約45度の方向を指します。

太陽風磁場が
らせん状になるようす


実際に観測された
太陽風磁場


地球磁気圏に吹き付ける太陽風
(c) 宇宙科学研究所

 地球に吹き付ける太陽風は、磁場を横切ることができないので、 地球の磁場の勢力圏に直接入ることが出来ません。 地球は、太陽風のガスの海に浮いた小さな泡のような磁気圏に守られる形になっています。
 太陽風は、地球の磁気圏との境界に強い電流を流してこれを押し縮め、 さらに、地球の磁場を一部はぎ取るような現象を起こして 磁気圏に電磁エネルギーを注入しています。 これが地球の磁場の乱れを起こしたりオーロラを光らせたりするわけです。




 太陽風は、太陽フレアのような大きな爆発が無い時でも常に宇宙空間へ吹き出していますが、 地球への影響が大きいのはやはり 太陽風が高速で高密度の場合と、 太陽風の磁場の向きが地球の磁場の逆向きになる場合です。
 地球への影響を予測する上には、太陽表面に現れるさまざまな現象のうちの どれが地球に大きな影響を及ぼす太陽風になるのかを知り、 それが地球に到達する時間を正確に予報することが必要になります。

ダイナミックな太陽の姿が見られるサイト


 それには太陽風の速度の履歴が必要ですが、 太陽風がどのように加速されていくのか、詳しいことはわかっていません。 表面温度6千度の太陽からどうやって百万度のコロナへエネルギーが伝わるのかもわかっていません。 地球軌道付近で観測される秒速500kmを超える太陽風を説明するには コロナ温度が低すぎますし、理論的にはコロナが高温であるほど 太陽風が高速となるはずなのに、現実には低温低密度の コロナホールと呼ばれる領域の方が太陽風が速いのです。



横向きに放出され初速度のわかっているCMEを惑星軌道の探査機で直接観測する

(c) Tomoko Nakagawa

 太陽風が加速される領域に直接探査機を投入して温度や速度を測れば 太陽風の発達の様子がよくわかることでしょう。しかしながら、 それほど太陽に近い場所に探査機を送ることはまだ困難です。
 加速域での直接観測が無い以上、太陽風が太陽表面を出発する時の初速度と、 同じ太陽風の、惑星間空間での速度を知ることが大きな手がかりになります。
 太陽の表面の様子は「ようこう」衛星や米国のSOHO衛星のX線観測などで 詳しくわかるようになりました。 すべての太陽風の動きがわかるわけではありませんが、 視線方向に垂直に動く、周囲より高密度の太陽風については初速度がわかります。


火星探査機「のぞみ」 
本物はまだマストやワイヤーアンテナは伸展していません(2002年現在)
(c) 宇宙科学研究所

 一方、日本で初めて太陽風を直接観測したのは ハレー彗星探査機「さきがけ」でしたが、今は宇宙空間を巡航中の火星探査機「のぞみ」が、 センサーマスト未伸展ながら惑星間空間での磁場観測を始めました。

 「のぞみ」衛星は太陽の東西に回り込むため、撮像を受け持つ衛星の視線方向に対し 垂直に放出された太陽風を宇宙空間で直接観測できます。 周囲と異なる太陽風が太陽表面から放出されるのに対応して、 宇宙空間でも通常と異なる磁場構造が見られることがわかってきました。 日本ではより太陽に近い水星へ探査機を送る計画も進んでいます。

 このような観測を組み合わせることによって、太陽面の現象と地球磁気圏へ影響を与える太陽風の関係を明らかにする試みを続けています。



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